山崎阿弥/ライブ情報など
by amingerzz
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熱い耳
起き抜けに触れた耳は、指がひりひりするほど熱かった。

こんな耳をして、あなたはいったい、夢の中で何を聞いているの?

私の指に熱を移し取るように耳のふちをなぞると、一緒に触れた髪が柔らかくたわんで元の位置に戻った。彼の髪はどんなに揺れても元の流れに従順に戻る。一見固そうに見えて素直なその髪を、私は何度も不思議に眺めてきた。起きていても眠っていても彼は私が見つめていることに気付いていないようだった。

ふいに、家族が二人ずつ違う苗字になったここ数年のことを思った。母と妹、父と私。母の旧姓との組み合わせで出来る名前は全く私ではなかった。父のことは憎んでいたけれど苗字を使い続けることは厭わない、手続きも面倒だ。

彼は昨晩言った。「あなたが母親や妹とかわす電話の端々に嫉妬してたんだ。実を言うと」。若い頃に両親とも他界した彼には記憶の家族しかない。かと言って何も弱々しいものなどはない、と人に言えるほどには彼の心は片付いている。しかし、記憶の家族は何にもまして強く刻まれていて、記憶を読み出すたびに深い気持ちになる。「私には私固有の記憶と経験があるから」と同情をやさしく拒みながら涙ぐむ、涙ぐむとき彼はいつも「実を言うと」と、自分自身に告白するように私の方を見る。
彼はその後間もなく眠りにつき、すぐに目覚め、まだ起きていた私に今見た夢を話した。「君の乳房を剥ぎ取ったよ」。夢とも現実ともつかないような一行を残して、また眠りに落ちた。私は切り取った乳房を耳にあて貝殻から海の音を聞くように目を閉じる彼を想った。耳が、内側から熱くなったように感じた。




この項つづく。
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by amingerzz | 2009-11-01 21:31 | ●物語
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